「芝浜」の漫画表現
『昭和元禄落語心中』9巻で、与太郎が披露した「芝浜」。
四国の温泉旅館「亀屋」に残されていたフィルムには、八雲が認める助六の若かりし頃の「芝浜」が収録されており、それを見た与太郎が、生きる気力を失った師匠・八雲の前で再現。
一門の複雑な人間関係が織り込まれた一席を、漫画では読者の感動を誘うように劇的に表現されています。
冒頭

棒手振で魚を商うクマの名から始まる「芝浜」。
与太郎は淡々と、
しかし当時の助六そっくりに披露し始める。
その噺っぷりに瞬時に気づいた八雲の表情が、
カットインするかのようにつづく。
中盤
噺は中盤に差し掛かり、
扇子をキセルに見立てながら演じる与太郎。
その仕草に、
小夏も父・助六のあの頃を重ね合わせる。


四十八両が入った財布を拾ったクマが、祝い酒を食らって寝入ってしまうシーン。
助六と瓜二つの「芝浜」がつづく。
終盤
噺は終盤。
三年が経過し、ついに女房がすべてを打ち明けるシーン。
「芝浜」はここで、女房の表現が「内助の功」タイプか、
「亭主に惚れ抜いた」タイプかに分かれる。
ここで与太郎が演じた女房は、
「亭主に惚れ抜いた」タイプだった。
そしてクライマックスのオチ。
助六が貫いた妻・ユリエ(みよ吉)に対する想い、
そして与太郎の師匠や妻・小夏に対する想い、
それぞれの想いが「芝浜」の夫婦の心情と重なり合い、
与太郎の瞳からは大粒の涙があふれる。
『昭和元禄落語心中』9巻で、このうえない感動的なシーンとして描かれている。
*この感動をぜひ、『昭和元禄落語心中』(漫画)でご体験ください。

「芝浜」のアニメ表現
漫画で感動的に描かれていた与太郎の「芝浜」。
アニメでは動画の特性を活かし、漫画の感動シーンをさらに引き立たせる演出が加えられています。
冒頭

当時の助六そっくりに「芝浜」を披露し始めた与太郎。
瞬時に気づく八雲。
漫画にはなかった八雲の後ろ姿が加えられ、次に続くハッとする表情が一層際立つように演出されている。
中盤
噺は中盤。
扇子をキセルに見立てる与太郎。
漫画にはない火打ちとキセルを吸い始める仕草が加えられている。


さらに若かりし頃の父・助六とそっくりなことに気づいた小夏の表情が、当時にタイムスリップするかのように画面が一瞬ぼやける。
動画ならではの繊細な演出がつづく。
終盤
噺は終盤。
嘘をついていたことを女房が打ち明ける。
するとクマが驚く顔に、芝の浜を連想させる海、涙して謝る女房の姿、さらに夫婦の心情を感じさせる音楽が重なる。
漫画にはない印象的なシーン。


クマが女房に感謝の言葉を伝える。
感謝してるよ、ありがとう。
その言葉を聞いて、何かを思う八雲がうつむく。
アニメではうつむく動きが表現され、
八雲の心情をより強く印象付けている。
やっぱりよそう、とクマが酒を置くシーン。
あふれる涙と清々しい表情の対比で、クマの心情を細かく表現し、オチへと向かう。

漫画とは一味違う感動があります。
アニメ版「芝浜」をぜひこちらからご覧ください。
「芝浜」の噺家表現

これまでご紹介してきた、
昭和元禄落語心中で与太郎が披露した「芝浜」と、
当然ながら一味も二味も違うナマの噺家の「芝浜」。
こちらは2017年1月31日、
浅草演芸ホールで開催された「昭和元禄落語心中寄席」において、
柳家権太楼師匠が披露した「芝浜」です。
息を飲んで噺に食い入るお客の空気も感じられる、極上の一席。
与太郎同様、師匠のクライマックスの熱演に、ぜひご注目ください。
柳家権太楼 プロフィール

本名 | 梅原健治(うめはら けんじ) |
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生年月日 | 昭和22年(1947年)1月24日 東京都出身 |
出囃子 | 金毘羅(こんぴら) |
紋 | くり猿(くくり猿) |
略歴
昭和45年 4月 | 明治学院大学法学部卒業。 故柳家つばめ入門、前座名ほたる。 |
---|---|
昭和49年 9月 | 師匠他界のため柳家小さん門下となる。 |
昭和50年 11月 | 二ッ目昇進、柳家さん光と改名。 |
昭和53年 11月 | NHK新人落語コンクール優秀賞受賞。 |
昭和55年 1月 | 54年度日本演芸大賞ホープ賞受賞。 |
昭和57年 9月 | 真打昇進、三代目柳家権太楼襲名。 |
昭和62年 2月 | 61年度若手演芸大賞、大賞受賞。 |
平成6年 12月 | 社団法人落語協会功労賞受賞。 |
平成13年 11月 | 社団法人落語協会理事就任。 |
平成14年 3月 | 浅草演芸大賞・奨励賞受賞。 |
平成18年 3月 | 社団法人落語協会常任理事就任。 |
平成24年 3月 | 23年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。 |
平成25年 3月 | 24年度板橋区区民文化栄誉賞受賞。 |
平成25年 4月 | 明治学院大学客員教授就任。 |
平成25年 6月 | 社団法人落語協会監事就任。 |
平成25年 11月 | 紫綬褒章受章。 |
令和2年 8月 | 監事を退任し相談役に就任。 |